「憂国のモリアーティ」のアニメは2020年10月11日から第1クールが放送開始され、2021年4月から第2クールが放送されました。全24話に加え、2022年にはOVA2話も放送されています。Production I.G.が制作を担当し、美しい映像美と緻密なストーリー展開で多くのファンを魅了しました。
第1クール（第1話～第11話）では、主人公ウィリアム・ジェームズ・モリアーティが「犯罪コンサルタント」として、階級社会の闇に苦しむ人々の依頼を受け、悪徳貴族を成敗していく様子が描かれます。第2クール（第12話～第24話）からは、シャーロック・ホームズとの本格的な対決が始まり、物語はより壮大なスケールへと発展していきます。
各話のタイトルも「緋色の瞳」「ノアティック号事件」「最後の事件」など、原作小説へのオマージュが随所に散りばめられており、シャーロキアン（シャーロック・ホームズファン）にも楽しめる作品となっています。
本作の最大の特徴は、通常「悪役」として描かれるモリアーティ教授を主人公に据え、彼の視点から物語を展開している点です。19世紀末のイギリスは産業革命によって繁栄を極めていましたが、その陰では厳格な階級制度によって人口の3％未満の上流階級が国を支配し、多くの人々が貧困に喘いでいました。
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは、この腐敗した階級制度を打破するために「犯罪卿」として活動します。彼自身も孤児として下層階級の苦しみを知っており、兄のアルバートと弟のルイスとともに、モリアーティ家の名を継いだ後も改革への情熱を失っていません。
特に印象的なのは、ウィリアムの行う「犯罪」が単なる悪ではなく、より大きな善を成すための手段として描かれている点です。彼は悪徳貴族の罪を暴き、時には彼らを死に追いやることもありますが、それは常に「正義」のためであり、新たな社会秩序を構築するための必要悪として描かれています。
朱色を基調とした美しくも残酷な犯罪シーンの描写は、本作の大きな見どころの一つです。ウィリアムの冷静な表情と、その裏に秘めた熱い正義感のコントラストが、視聴者の心を強く捉えます。
第1クールの途中から登場するシャーロック・ホームズは、原作通りの鋭い観察眼と推理力を持ちながらも、好奇心が強く、時に倫理観が微妙に欠如しているような独特のキャラクターとして描かれています。彼とモリアーティの対決は、単なる「善vs悪」の構図ではなく、異なる正義の衝突として描かれているのが本作の醍醐味です。
特に第2クールからは、「証拠がなければ見つけ出そうとする探偵」と「証拠がなければ作り出す犯罪卿」という対比が鮮明になり、二人の知略を尽くした駆け引きが物語を大きく盛り上げます。シャーロックの相棒であるジョン・H・ワトソン医師や、兄のマイクロフト・ホームズなど、原作ファンにはおなじみのキャラクターも多数登場し、彼らとモリアーティ陣営との関わりも見どころの一つです。
第19話から第20話にかけての「ロンドンの騎士」編では、シャーロックとウィリアムが一時的に協力する場面もあり、敵同士でありながらも互いを認め合う二人の関係性が複雑に描かれています。最終話に向けて徐々に高まる緊張感と、「最後の事件」と呼ばれるクライマックスでの決着は、原作ファンも納得の展開となっています。
本作の魅力は、主人公ウィリアムだけでなく、個性豊かなキャラクターたちにもあります。まず、モリアーティ家の長男アルバートは、ウィリアムの理想を理解し支える重要な存在です。次男のウィリアムは頭脳明晰な戦略家であり、末っ子のルイスは行動力と身体能力に優れています。この三兄弟の絆と、それぞれの役割分担が物語の基盤となっています。
モリアーティ陣営には、元軍人のセバスチャン・モランや、元スパイのミカ、様々な特技を持つフレッドやルイスなど、多彩な協力者たちが集まっています。彼らはそれぞれ階級社会の犠牲者であり、ウィリアムの理想に共感して集まった仲間たちです。
一方、シャーロック側には、忠実な友人ワトソンや、シャーロックに恋心を抱くアイリーン・アドラーなど、原作ファンにはおなじみのキャラクターが登場します。特に第12話から第14話にかけての「アイリーン・アドラー編」は、原作「ボヘミアの醜聞」をベースにしながらも、本作独自の解釈で描かれており、彼女の強さと知性が光る印象的なエピソードとなっています。
声優陣も豪華で、ウィリアム役の斉藤壮馬、シャーロック役の諏訪部順一をはじめ、佐藤拓也、小西克幸、山下誠一郎など実力派声優が集結し、キャラクターに命を吹き込んでいます。
「憂国のモリアーティ」の視聴者からの高評価の理由の一つに、その美しい作画と音楽があります。Production I.G.による丁寧な作画は、19世紀末のロンドンの街並みや衣装、小物に至るまで細部にこだわって描かれています。特に朱色を基調とした犯罪シーンや、霧に包まれたロンドンの街並みなど、どのシーンを切り取っても絵になるような美しさが特徴です。
また、菅野祐悟による音楽も本作の雰囲気を見事に表現しています。オープニングテーマ「DYING WISH」（第1クール）と「TWISTED HEARTS」（第2クール）はいずれもTASUKUが担当し、エンディングテーマには「ALPHA」（第1クール、STEREO DIVE FOUNDATION）と「OMEGA」（第2クール、STEREO DIVE FOUNDATION）が使用されています。これらの楽曲は物語の世界観を補完し、視聴者を19世紀末のイギリスへと誘います。
劇中で使用されるBGMも、緊迫したシーンや感動的な場面を効果的に盛り上げており、音楽面でも高いクオリティを誇っています。特に、ウィリアムとシャーロックの対決シーンでの緊張感あふれる音楽は、二人の知的な駆け引きをより一層引き立てています。
本作の美術設定は、当時のイギリスの社会状況や建築様式を忠実に再現しており、歴史的な背景も含めて楽しめる作品となっています。ビクトリア朝時代の衣装や調度品、馬車や蒸気機関車など、細部にまでこだわった描写は、時代劇としての魅力も兼ね備えています。
「憂国のモリアーティ」は放送当初から多くのアニメファンの心を掴み、特に原作ファンからの評価も高い作品です。視聴者からは「階級制度の闇を描いた作品として秀逸」「ダーティな雰囲気がgood」「絵が綺麗でいちいちかっこいい」といった感想が多く寄せられています。
特に女性視聴者からは、「麗しい三兄弟が階級社会に反発し、強い意思をもって行動する姿が素敵」「ウィリアムが悪者に見せる冷たい表情と、弟に見せる優しい微笑みのギャップがたまらない」といった声が多く、キャラクターの魅力に惹かれるファンが多いようです。
また、「各回ごとにスッキリ展開だからストレス解消になる」「主人公がしていることは悪いことだけど、その相手が胸くそなことをしているからとってもスッキリする」といった感想もあり、現代社会の不条理さに対するカタルシスを感じる視聴者も少なくないようです。
原作ファンからは「設定が斬新で面白い」「シャーロック・ホームズのライバルであるモリアーティをモチーフにしているのが面白い」「ダークファンタジーという感じで犯罪を行い、復讐を手伝うというのが斬新」といった評価があり、古典的な作品に新たな解釈を加えた本作の試みが高く評価されています。
本編24話に加え、「憂国のモリアーティ」には2022年8月に放送されたOVA2話も存在します。OVA第1話「百合の追憶」と第2話「モリアーティ家の休日」は、本編では描かれなかったキャラクターたちの日常や過去を描いた貴重なエピソードとなっています。
また、本作は漫画や小説、舞台など様々なメディアで展開されています。原作漫画は2016年8月から「ジャンプスクエア」（集英社）で連載が開始され、現在も続いています。小説版も発売されており、アニメでは描かれなかったエピソードや、キャラクターの内面をより深く知ることができます。
舞台版「憂国のモリアーティ」も人気を博しており、荒牧慶彦、鈴木勝吾、高橋健介らが出演し、原作の世界観を舞台上で再現しています。アニメとは異なる解釈や演出も見どころの一つで、メディアミックス展開の成功例として注目されています。
さらに、公式ファンブックやグッズなども多数発売されており、ファンにとっては嬉しい展開が続いています。特に、キャラクターデザインや設定資料、スタッフインタビューなどが掲載された公式ファンブックは、本作の世界観をより深く理解するための貴重な資料となっています。
「憂国のモリアーティ」の最も興味深い点は、「正義とは何か」という根本的な問いを視聴者に投げかけている点です。主人公ウィリアムが行う「犯罪」は、確かに法律的には許されないものですが、それは腐敗した社会システムを変革するための手段であり、より多くの人々を救うための「必要悪」として描かれています。
一方、シャーロック・ホームズは法と秩序の側に立ち、犯罪者を追い詰める「正義の味方」です。しかし、彼もまた単純な「善」の体現者ではなく、好奇心や探究心に突き動かされ、時に倫理的な境界線を曖昧にする複雑なキャラクターとして描かれています。
この二人の対立は、「目的のために手段を選ばない革命家」と「既存の秩序を守る保守派」の対立とも読み取れます。視聴者はどちらの「正義」に共感するか、自分自身の価値観と照らし合わせながら物語を楽しむことができるのです。
特に現代社会においても、格差や差別、社会的不公正は依然として存在しており、本作が問いかける「正義とは何か」「社会変革のためにどこまでの手段が許されるのか」といった問いは、視聴者の心に深く響くものがあります。
「憂国のモリアーティ」は単なるエンターテイメントを超え、視聴者に社会や正義について考えさせる深い作品であり、それが多くのファンに支持される理由の一つとなっています。美しい映像と魅力的なキャラクターに彩られた本作は、アニメファンだけでなく、社会問題や歴史に興味がある方にもおすすめの作品です。