宝亀克寿(ほうき かつひさ)は1946年10月30日生まれの日本の声優・俳優です。長崎県佐世保市出身で、現在は青二プロダクションに所属しています。声優としての活動は1990年代から始まり、それ以前は1980年代から俳優としても活動していました。
宝亀さんの声優としてのキャリアは、実は比較的遅いスタートでした。40代後半から本格的に声優業に携わるようになったという点で、多くの声優とは異なる経歴を持っています。その分、豊かな人生経験を活かした演技が特徴です。
所属事務所の変遷も興味深く、かつては劇団東演、劇団百鬼座、シグマ・セブン、ぷろだくしょんバオバブ、ケンユウオフィスなどに所属していました。2020年1月1日から青二プロダクションに移籍し、現在に至ります。
宝亀さんの特色として、九州弁(佐世保弁)を自在に操れることが挙げられます。この特技を活かし、2003年のNHK連続テレビ小説『てるてる家族』やアニメ『坂道のアポロン』では、役者としての出演だけでなく方言指導も担当しました。『坂道のアポロン』では、現場で作者の小玉ユキが高校の後輩だったことを知ったというエピソードもあります。
声優としては、渋い声質を活かして中年から老年の男性役を多く演じています。特に洋画や海外ドラマではベテラン刑事役にハマり役が多いことでも知られています。
宝亀克寿さんの代表作として最も知られているのが、人気アニメ『ONE PIECE』のジンベエ役です。この役は元々、声優の郷里大輔さんが担当していましたが、2010年1月に郷里さんが急逝したことを受けて、宝亀さんが二代目ジンベエ役を引き継ぎました。
ジンベエは、『ONE PIECE』の世界において「七武海」の一人として登場し、後にルフィ率いる麦わらの一味に加わる魚人族の重要キャラクターです。宝亀さんは、郷里さんの演じたジンベエの印象を継承しつつも、自身の個性を加えた演技で多くのファンに受け入れられました。
興味深いことに、宝亀さんは『ONE PIECE』において、ジンベエ役を引き継ぐ前から、同じく七武海の一人であるゲッコー・モリア役を演じていました。つまり、一つの作品内で二つの重要キャラクターを演じるという珍しい経験をしています。
宝亀さんのジンベエ役としての声は、威厳があり、誠実さと強さを兼ね備えた人物像を見事に表現しています。特に、ルフィたちとの絆を深めていく過程での感情表現は、多くのファンの心を打つものでした。
『ONE PIECE FILM RED』(2022年)や『ONE PIECE』のテレビアニメシリーズなど、長期にわたってジンベエ役を演じ続けている宝亀さんの功績は、この作品の魅力を高める重要な要素となっています。
宝亀克寿さんのキャリアにおいて、もう一つの印象的な役柄が2006年のアニメ『ひぐらしのなく頃に』での北条鉄平役です。北条鉄平は、主人公たちが住む雛見沢村の住民で、養女である北条沙都子に対して虐待を行う、視聴者からは憎まれる悪役キャラクターでした。
宝亀さんは北条鉄平の複雑な人物像を見事に演じ分けました。表面上は村の人々に対して愛想よく振る舞いながらも、家庭内では沙都子に対して暴力を振るう二面性を持つ鉄平の演技は、視聴者に強い印象を残しました。特に、怒りに任せて沙都子を虐待するシーンでの迫真の演技は、キャラクターの恐ろしさを際立たせています。
『ひぐらしのなく頃に 卒』でのインタビューで宝亀さんは、「急に沙都子に優しくなっていった時、やっぱり人の子かと思いました」と語っており、キャラクターの心理的変化を演じる上での洞察を示しています。この役を通じて、宝亀さんは悪役演技の幅広さを見せつけました。
北条鉄平役での宝亀さんの演技は、視聴者に強い感情を喚起させるものでした。実際、宝亀さん自身が「悪役を演じている時に届いていたファンレターに『お前もなかなかやるな』と書かれていたりすることもあった」と語っているように、役柄と俳優本人を混同するほどの強い印象を与えたことがわかります。
2006年に放送されたアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』でのバトレー・アスブリウス役も、宝亀克寿さんの代表作の一つとして挙げられます。バトレーは、ブリタニア帝国の貴族で、主人公ルルーシュの学友ミレイ・アッシュフォードの祖父にあたるキャラクターです。
宝亀さんは、老練な貴族としてのバトレーの威厳と知性を見事に表現しました。特に、物語の重要な局面で登場するシーンでは、その存在感のある声で場の緊張感を高めています。
『コードギアス』シリーズは、その後も『コードギアス 反逆のルルーシュI 興道』(2017年)などの劇場版も制作され、宝亀さんはこれらの作品でもバトレー役を継続して演じています。長期にわたるシリーズでの一貫した演技は、キャラクターの信頼性を高め、作品世界の奥行きを深めることに貢献しています。
バトレー役での宝亀さんの演技の魅力は、老年の貴族としての威厳を保ちつつも、時に見せる人間味にあります。複雑な政治的背景を持つ『コードギアス』の世界観において、バトレーというキャラクターを通して、宝亀さんは老練な政治家としての深みを表現しました。
2025年に入っても、宝亀克寿さんの声優活動は精力的に続いています。最新作としては、2025年1月から放送が開始された『外れスキル《木の実マスター》 ~スキルの実(食べたら死ぬ)を無限に食べられるようになった件について~』で虎髭(とらひげ)役を演じています。
虎髭は冒険者ギルドの保安局主席保安官という役柄で、聖都と周辺地域の治安維持を担当しています。戦闘能力やパワーに自信があり、「ガハハ!」と豪快に笑う特徴を持つキャラクターです。この役について宝亀さんは「楽しくやれそうな役で頑張りたい」とコメントしており、新たな挑戦に意欲を見せています。
また、2025年春からは『炎炎ノ消防隊 参ノ章』でオニャンゴ役の続投も予定されています。『炎炎ノ消防隊』は前作『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』(2020年)から続く人気シリーズで、宝亀さんの演じるオニャンゴというキャラクターも物語において重要な役割を担っています。
さらに、2024年秋からは『「オーイ!とんぼ」第2期』でクタさん役も演じており、幅広いジャンルの作品に出演し続けています。
これらの最新作での活躍を見ると、78歳という年齢を感じさせない宝亀さんの声優としての精力的な活動が伺えます。長年の経験を活かした渋い声質は、様々なキャラクターに命を吹き込み続けています。
宝亀克寿さんの声優としての最大の魅力は、長年の俳優経験に裏打ちされた確かな演技力と、渋い声質を活かした独特の存在感にあります。特に中年から老年の男性キャラクターを演じる際の説得力は、他の声優には真似できない宝亀さんならではの強みです。
宝亀さんの演技スタイルの特徴として、キャラクターの内面に深く入り込む姿勢が挙げられます。例えば『ひぐらしのなく頃に』の北条鉄平役では、単なる「悪役」ではなく、複雑な心理を持つ人間として演じることで、視聴者に強い印象を残しました。
また、宝亀さんは方言、特に九州弁(佐世保弁)を自在に操る能力も持っています。これは『坂道のアポロン』での方言指導にも活かされました。木村良平さんは宝亀さんについて「人気の先生のように、生徒たちに囲まれて、ひとつひとつすごくうれしそうに教えていらっしゃるのが印象的だった」と語っており、宝亀さんの教え方の丁寧さと熱意が伝わってきます。
さらに、宝亀さんは役柄に対する深い理解と尊重の姿勢も持っています。『ONE PIECE』のジンベエ役を引き継いだ際には、前任の郷里大輔さんの演技を尊重しつつも、自分なりの解釈を加えることで、キャラクターの連続性を保ちながらも新たな魅力を引き出すことに成功しました。
宝亀さんは声優としてだけでなく、俳優としても活動しており、その経験が声の演技にも活かされています。テレビドラマや舞台での経験は、アニメキャラクターに命を吹き込む際の豊かな表現力の源となっています。
2013年時点で宝亀さんは、同窓会などで佐世保に帰郷した際には必ず様々な人に「アニメを見るように原作を読むように」と薦めていたそうです。これは、作品への深い愛情と尊重の表れであり、宝亀さんの仕事に対する真摯な姿勢を示しています。
長年にわたる声優活動を通じて、宝亀克寿さんは多くのファンに愛され、数々の印象的なキャラクターを生み出してきました。その渋い声は、これからも様々なアニメ作品で私たちの心に響き続けることでしょう。